アニメ『響け!ユーフォニアム』の感想と評価。※ネタバレ注意 | haigaki reports.

『響け!ユーフォニアム』というアニメをご存知ですか?

普段アニメを見ない人の中には「アニメ=萌え系」や「アニメファン=ヲタク気質」といった連想をされる方がいるかもしれません。

アニメやアニメファンが世間からどう思われようと構わないんですが、1つはっきりと申し上げておきたいことはアニメが必ずしも一般的に“サブ”カルと呼ばれる範疇にとどまる作品ばかりではないということです。

そして、それはアニメ『響け!ユーフォニアム』についても言えます。

今日はそんな特別なアニメ“響け”についてレポートします。

このアニメを観たことがないという方もいらっしゃるので初めに概要を簡単に説明したあと、印象に残ったエピソードを1つ、できるだけわかりやすく取り出して僕の感想を書きます。

ネタバレが含まれている点と場面を説明しながらの感想なので少し長くなっている点をご了承ください。

TOP画像の出典
宇佐美亮祐・松本光生編(2015)『TVアニメ響け!ユーフォニアム オフィシャルファンブック』宝島社

『響け!ユーフォニアム』ってこんなアニメ

高校の吹奏楽部の話です。『北宇治高校吹奏楽部』と呼ばれています。
舞台は京都・宇治で作中には宇治橋や宇治川が頻繁に登場します。メインキャラクターは部員の女子数名と顧問の男性教諭です。TOP画像の右が主人公です。ユーフォニアムは主人公が担当する楽器名。

そこで描かれているのは吹奏楽部内でのリアルに近い人間関係と部の成長・大会までの軌跡。
チーム全員で本気になって目標の賞を獲りに行くというスポ魂的な要素もこのアニメの面白いところですが、それ以上にその過程における人間模様や個々の部員の感情の起伏がこのアニメの1番の魅力だと僕は考えています。

冒頭でお話したように“響け”はいわゆる「萌え・ゆる・ふわ・もふ系のアニメ」ではありません。 その部内の雰囲気は部活系アニメの中なら「けいおん!」よりもむしろ「ハイキュー!!」寄りです。

「けいおん!」も面白いアニメですが北宇治吹奏楽部にはあのようなコミカルさはほとんどありません。いたってシリアスです。

アニメは今のところ1期(2015年全13話)と2期(2016年全13話)で全部ですが、今回は主に1期の内容から話します。ちなみに監督はあの「ハルヒ」と同じ方で、制作も京アニです。

特に印象に残ったシーン

オーディション

多くのTVドラマや映画でもそうですが、アニメにおいてもそれぞれのキャラクター同士の人間関係の描写は劇中の醍醐味の1つですよね。

また、人間関係と一言で言ってもその中には多種多様な関係があります。
“響け”で見られるものは先輩と後輩の上下関係やそこから生まれる衝突・確執・尊敬・愛情、同期との友情とそれが深まっていく様子。部活なので競争が生まれるし、やる気のない人がいれば辞める人も出てきます。恋愛と失恋も一部にはあります。

以下より僕が“響け”で一番心を揺さぶられた場面について話します。

それはトランペットのある3年生と1年生、2人の間で繰り広げられた「ソロパート」をめぐる真剣勝負です。

顧問の先生はその年に北宇治へ赴任されたばかりで、吹奏楽部の新しい顧問になりました。彼自身も業界では多少名の通っている音楽家です。

彼は夏の大会に出るメンバー(最大55名)をオーディションによって決めることにしました。これは上級生が優先されていた去年までとは違うシステムです。 そして、問題となった1人だけしか吹けないトランペットのソロパートも、そのオーディションの際いっしょに選ばれます。

オーディションでは部員一人一人が別々に顧問と副顧問2人の先生の前で担当のパートの一部を演奏します。

オーディションの結果、ソロパートにまだ1年生の高坂麗奈が選ばれました。

香織先輩と高坂麗奈


出典 宇佐美亮祐・松本光生編(2015)『TVアニメ響け!ユーフォニアム オフィシャルファンブック』宝島社

画像は香織先輩。高坂はTOP画像の左。

高坂のライバルの3年生・香織先輩はアニメ内では美人で気遣いができて思いやりがある。さらに後輩のためには一歩も二歩も踏み込んだ行動もできる。出来過ぎなくらい素敵な先輩として描かれています。もちろんトランペットも上手です。

彼女はまだ高校3年生という若さにもかかわらず本当によくできた人物だと僕も感心させられました。尊敬します。

そんな先輩ですから、特に2年生の、2年生にとって3年生は今の1年生よりも1年間付き合いが長い分、中には信奉する子もいます。
最初のオーディションの結果、高坂はそういった一部の先輩たちからはお門違いの、でもその言いたくなる気持ちは十分に理解もできる言いがかりをつけられます。

高坂はこのような一部の先輩からのいわれのない誹謗中傷に対して怒ります。

音楽室で他の部員たちも多くいる中で「なぜ私が選ばれたか、そんなの解ってるでしょう? 香織先輩より私の方が上手いからです。」と自分にケチをつける先輩に向かってはっきりと、強く攻撃的に言い放ちました。

「こいつヤバいな」というのがそんな彼女の激昂を見た時の印象です。彼女はそのときまだ1年の1学期です。もしかすると部員全員に嫌われてしまうかもしれないような発言をすることに驚きました。

その現場で先輩のクレームを耳にして(直接言われたわけではありません)、頭に来てから声を出すまでにはラグがありました。 その時間に彼女は何を考えていたのでしょうか。ただただ耐えていたのか、反論内容を整理していたのか、一言目を発するまでの心の準備か、その後先のことか。

僕が思うに、高坂は不器用なところはありますが馬鹿ではないので先輩に対して意見をする手前、上記のほとんどが頭の中を駆け巡っていたのだと思います。

それでも内容はひどかったです。間違ってはいませんが言い方がえげつない。自分の方が上手いと心で思ってはいてもわざわざ口にする理由がわかりません。しかも、「香織先輩」となぜ名指しにしたのでしょうか。普通の神経では考えられません。 なぜなら、この場面で香織先輩は顧問の決定に従っているし、高坂に文句を言うどころかずっと高坂や部内の雰囲気を気遣っていました。香織先輩は大人です。

例えば“今は私が一番うまいから選ばれたんです”とか、言うにしても他に言い方があります。だから、この音楽室でのやり取りは高坂だけではなく香織先輩にとってもとばっちりでした。

それなのに、高坂はたたみかけます。

「ケチつけるなら、私より上手くなってからにしてください。」

。。。

あのセリフってまさか香織先輩に言ったんじゃないですよね。
アングルだと高坂は香織先輩を向いているように映っていましたが。

僕の推測ですが高坂もまだ高校一年生と若かったので、色々考えても結局最後は怒りに任せてついつい怒鳴ってしまったのでしょう。ああいう場面ではギリギリまで我慢をしていても、一度口に出してしまえば堰を切ったようにその後も言葉が続いてしまうものです。

そのあと教室を飛び出し「うざい、うざい、うざい、うっとうしい」と気持ちを言葉で吐き出していました。

念のために言っておきますが、普段の彼女は決して「私が強い」などとアピールするような人間ではありません。怒ったのも自分のためだけではありません。下記の理由から自分が尊敬する滝先生へ不信の目を向ける部員に対する憤りもあります。

ソロパートをめぐる問題はここで収束しません。
この後もこの2年生のクレームの引き金となった「高坂のお父様が顧問の滝先生とお知り合いで、そういう事情から滝先生が高坂を贔屓したのではないか」という猜疑心が部内でくすぶり続けます。

アニメ内では特に描かれていたわけではありませんが、滝先生は苦悩されたと思います。

大会前に部内の混乱を招き活動を停滞させてしまったからです。 滝先生ご自身も思うところがあってこのコンクールは勝ちたいと願っていましたので、このまま部が崩れていってしまうのでは悔し過ぎます。 また、彼に後ろめたい事実はかけらもないのですが、結果的には自身の信頼も落としました。

原因がなんであれ責任者は顧問です。どうやってこの事態を収束させればいいのか悩みます。

再オーディション

結果的に再オーディションをすることになりました。
僕は一度決まったものをもう一度やり直すことに理解ができませんでした。まさかこんな展開になるとは、と意表を突かれました。

高坂に決まったんだからそれでいいじゃないですか。道義的な観点からだけではなく、僕は高坂が好きなので余計に不満でしたし、その決定に対しては腹立たしく思いました。
これだと滝先生ご自身も1回目のオーディションにやはりなんらかの不正があったのだ、と一部の生徒に邪推される可能性だってあります。

再オーディションの方法は比較的大きなホールでのリハーサルの後に、部員全員の前で二人だけを舞台に並べて立たせ、それぞれに該当のソロパートを吹かせて観客席から聴いていた部員たちの拍手の大きさによって1人を決める。

実力主義と評される顧問の先生ですが、教育の一環といえどもまだ年端もいかない高校生にそのような形で競わせて1人を選ぶというのは酷なやり方だと思いました。

滝先生は「これで異論はないでしょう」とおっしゃいましたが、このやり方は公平と言えるでしょうか?

僕は異論があります。 人間関係が渦巻く部内の評価にはムラがあり過ぎるからです。

人気投票ならいざ知らず、コンクールでより良い成績を目指すという目標にそのような選抜方法はそぐいません。

つまり、本当に厳正な審査によってより技術の高い一方の奏者を選ぶべきでしょう。副顧問と音楽家である自分の2人で決めた最初の審査方法でよかったのです。

こんな風に僕は滝先生に対して再オーディションの決定とその手法に関して計2度の疑念を抱きましたが、これらは伏線であり見事にひっかかったことになります。この時の滝先生のご判断には以下の結末部分で納得することができました。

クライマックス

僕は”響け”ではこの一連の出来事、最初のオーディション〜再オーディションの結末までの部分に一番大きく心を揺さぶられました。
それは主に3つの理由からです。

1つは高坂の燃え上がる意思です。
「特別になる」ために有無を言わせず自分の信念に従って突き進む行動力と精神力。情熱というよりは猪突猛進。脇目を振らずに決意を全うする姿勢が面白い。意地のかたまりです。最高です。

音楽室での一件もそうですが、アニメではその前に描かれていた大吉山での「特別になる」という決意の表明。 さすが音楽家を志望しているだけあって、表現するエネルギーが強い。言葉だけではありません、告白に夜景が見えるロケーションを選んだことやファッション、髪の手入れ、山頂での楽器の演奏。総合的な表現力です。

そしてなにより、その誰よりも高い志しに引き寄せられるように行動も伴っています。

次に3年生を信奉する1人の2年生。 どうしても香織先輩にソロを吹いて欲しかったんでしょう。 3年生はその年のコンクールが最後ですからね。香織先輩は特に面倒見の良かった先輩でしたから。 最初のオーディション後、2人きりの教室で香織先輩を励ます姿。 再オーディションの前には後輩の高坂に頭を下げて「わざと負けるよう」に懇願していました。

その2年生の必死さがひしひしと伝わってきます。彼女の表情や言葉、心の動き方が上手に描かれています。最後まで目が離せません。

1番大きな理由は香織先輩の心情です。 置かれている状況は高坂よりも3年生である彼女の方が複雑です。 高坂は絶対に勝って自分がソロパートを吹く。「特別になる」ための一歩です。

一方で3年生は下級生に追われる・比べられる。このときに先輩としての威厳やプライドもかけることになります。しかもすでに彼女は1度目のオーディションで高坂に負けています。

ソロを吹きたいのは高坂も同じですが、次の大会が彼女にとっては最後のコンクールだという点もまた高坂とは状況が異なります。しかも上級生が優先されていた去年まではそのチャンスはありませんでした。 また、忘れてはならないのは、彼女も高坂に負けず劣らずトランペットが好きだということ。

自分のことを応援してくれている2年生からの応援や信頼、期待。

背負っているものが違います。

決して高坂の動機が軽いものだとは言いません。 しかし自分のために戦うことと、自尊心を野ざらしにして周りの期待を背負いながら戦うこと。 僕はこの場面については香織先輩の方がずっとストレスが大きいと考えます。 しかも香織先輩は高坂に対しても最初のオーディションが行われる前から高坂の置かれている立場を考えた上で高坂と他の部員への配慮を怠りませんでした。

彼女の優しさが心に突き刺さります。

その時が来ました。
最初に香織先輩が吹き、その後に高坂が吹きます。そして、それを観客席から見守る部員達。

2人の演奏後、観客席に対して滝先生が香織先輩がいいと思う人・高坂がいいと思う人、とそれぞれに拍手を求めました。

この再オーディションの結末部分はこのアニメのクライマックスの1つです。僕は泣いてしまいました。結果はアニメを観てください。

 
以上。

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きっかけ

“響け”の第2期の放送が終了したのが2016年末でした。この時点で響けに対するモチベーションが高まっていたのですぐに記事を書きたかったです。でも、逆にその時は書きたいことが多過ぎて案がまとまりませんでした。
この記事とは別に書ききれなかった記事がいくつか残っています。

感想文自体どう書けばいいのかわからなかったんですが、今回自分なりに書き切りました。
過去の書きかけの記事のまとめ方も決められたので4月と5月にも1本ずつ”響け”に関する記事を投稿します。

あとがき

このレポートを一通り書いたあと、事実確認のためにwikiを参照したら冒頭の内容紹介の一部の表現がwikiと似通っていました。
あえて修正せずにそのままにしています。

ネタバレ前提で書いた記事ですし、結末部分とその感想も書きたかったのですが今回は我慢しました。もしかすると時間を空けてから追記によって更新するかもしれません。

最後まで読んでくださってありがとうございました。

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